国立故宮博物院図書館は民国57年(1968)に開設して以来、院内職員のための文献整理や保全、研究、展示、出版の支援を主な業務としてきました。また、一般の皆さまや学術界からの芸術及び文史研究に対する幅広いご要望にお応えすべく、近現代の中国文化や歴史、国内外の芸術、文物の保存と修復、考古学、博物館学に関連する国内外の書物を積極的に収集し、開架式書架に排架して自由に閲覧できるようにしており、学術性と専門性、社会教育機関としての機能も備えた専門性の高い図書館です。本館が多数所蔵する特色豊かな資料については、以下にその概略を記しますので、参考になさってください。

貴重な図籍
本館では、絶版の美術書(外国語)や、早期(1960~1980年代)に台湾で開催された美術展の絶版図録も所蔵しています。その中で「Gredzens氏蔵書」が外国語の絶版書籍の代表として挙げられます。日本の図書では、1917年に大塚巧芸社により出版された『宋元明清名画大観』と、1951年に黒川古文化研究所により出版された『古鏡図鑑』が特に貴重なものです。本館の蔵書は高古磁器の研究に関するものが充実しており、アジアの古銅鏡に関する著作も豊富です。国立故宮博物院はかなり早い時期から世界的に著名な博物館や美術館と交流してきたため、本館には国内外の公私立大型博物館の主要な収蔵品に関する書籍や展覧会図録なども豊富に揃っています。

「Gredzens氏蔵書」
アジア研究を主題とした外国語書籍に関しては、民国82年(1993)に英国より購入した専門書─1,917種2,050冊があります。米国の蔵書家David I. Gredzens氏が生涯にわたって収集したもので、その名を冠して「Gredzens氏蔵書」(葛氏藏書)と命名されました。1723年から1985年に出版された、3世紀に渡る書籍が揃っています。また、1940年以前に出版された、「稀少本」に分類される書籍は500種を超えます。書籍の装幀様式や印刷美術の視点から見ると、欧州の絶版古書はとりわけ貴重で、書中に見られる独特なデザインの精美な蔵書票や版刻による細密な挿絵、精緻な大理石模様の美しい書籍カバー、箔押しされた欧州風の皮革工芸など、18世紀から19世紀にかけての欧州書籍の装幀芸術の美がご覧になれます。

『四庫全書』
故宮所蔵の清乾隆朝文淵閣『四庫全書』と摛藻堂本『四庫全書薈要』は広く世に知られています。この2種の貴重な蔵書は故宮を代表する古書の宝です。民国72年(1983)から75年(1986)にかけては台湾商務院書館と、民国75年(1986)から77年(1988)にかけては世界書局と協力して出版し、故宮所蔵品を世に広めると同時に、学術界に利益をもたらしました。本館ではその基礎に加えて、上海古籍出版社の『続修四庫全書』、北京出版社の『四庫禁燬書叢刊』や『四庫禁燬書叢刊補編』、『四庫未收書輯刊』、北京商務印書館の『文津閣四庫全書』など、数百種を超える関連の学術書を次々に購入し、「四庫学」の研究に必要とされる資料を揃えています。

オークション目録
芸術関連書籍を専門に収蔵する図書館として、本館では国内外の公私立博物館の収蔵品関連書籍と展覧会図録のほか、大規模オークションの目録も多数所蔵しています。このような美術品オークションに関する資料は、別の面からの比較や整理、研究、参考資料として、収蔵家や研究者に提供することができます。その中でも、サザビーズとクリスティーズ、中国嘉徳オークションの資料は非常に充実しており、専門のコーナーを設けて開架式書架に収めてありますので、参考資料としてご利用になれます。

満州語『大蔵経』
満州語『大蔵経』とは、『清文全蔵経』(108篋、目録1篋)を指し、清乾隆59年(1794年)に内府により刊行された満文朱印本の現代復刻版です。本院では2組を所蔵しており、本館と南部院区「アジア芸術文化資料センター」の開架式書架に排架され、閲覧可能となっています。

チベット語『大蔵経』
本館が所蔵する版本は『卓尼版甘珠爾(カンジュール)』107篋で、もともとは清康熙60年(1721年)に南京版と理塘版、チベットの諸抄本を底本として校勘し、10年の歳月を費やして、雍正9年(1731)4月に完成したものです。盛大に開光されてから後、甘肅省卓尼県の禅定寺印経院で開印されました。卓尼版はチベット語の大蔵経の貴重な版本であり、ごく少数しか刊行されておらず、経版木の原本は民国17年(1928)に焼失してしまいました。本館が所蔵するこの仏教経典は、近年、蘭州の霊岩禅寺で複製されたもので、精美な仕上がりとなっています。この一組は霊岩禅寺の住職、欽則・阿旺索巴嘉措仁波切から、2016年に南投県の南林尼僧苑を経由して本館に寄贈されました。また、その年の5月に本院で開催された特別展「唵嘛呢叭咪吽─故宮所蔵チベット仏教文物」では、この経典を収めたチベット仏教の蔵経閣が再現されました。

『内務府活計档』マイクロ資料
中国第一歴史档案館に収蔵されていた清朝内務府造辦処『各作成做活計清档』は、内務府造辦処による工芸品の制作記録で、雍正元年(1723)から宣統3年(1911)までの記録となっています。この档案(公文書)は1985年にマイクロ資料として中国第一歴史档案館から発行されました。総計155本あり、清朝内務府造辦処が担った各種工芸品制作に関する一次資料として研究に用いることができます。本館は民国90年(2011)に購入し、その年に開催された特別展「乾隆帝の文化大業」の策定に参考資料として提供しました。康熙帝の時代に開設された造辦処は、清代に内廷からの求めに応じて器物の制作や修繕を専門に行った機構です。康熙時代は、器物制作を記録する制度はまだ成立していませんでしたが、雍正元年になると、造辦処は各種器物の制作について系統だった記録を取り始め、『活計档』としてまとめられました。それにはあらゆる事柄が含まれており、皇帝に命じられた日付、制作または修繕した物品、原料の種類、物品の様式、修復を行った人員、完成年月日、設置の方法、物品の来歴と行方などが記されています。作坊の数量とその変化の推測や、器物制作の経緯に関する後世の研究に役立つほか、これらの記録から皇帝の趣味嗜好や性格、行いもうかがえるだけでなく、資料の校閲にも有用で、史実を補うこともできます。


家譜 マイクロ資料
民国85年(1996)、前聯合報文化基金会国学文献館より家譜(族譜)資料を寄贈いただきました。その中には米国のユタ系図協会が収集及び撮影、制作した3,156本のマイクロ資料もあり、それには中国と台湾の中国家譜9,984種と、韓国と琉球の域外家譜198種が含まれます。それらの家譜は、米国のコロンビア大学C・V・スター東アジア図書館、国会図書館、ハーバード燕京図書館、シカゴ大学東アジア図書館、カリフォルニア大学バークレー校 C・ V・ スター東アジア図書館、ワシントン大学図書館、ハワイ大学東洋図書館、日本の国立国会図書館、東洋文庫、京都大学東洋文化研究所、香港大学馮平山図書館など、11の機関から収集された中国の家譜約3,140種と、該協会が民国65年(1976)から75年(1986)にかけて台湾で行ったフィールドワークで収集された6,000種余りの台湾の家譜が含まれます。本院ではこれら家譜の分類整理を行ない、民国90年(2001)に『国立故宮博物院所蔵族譜簡目』を出版し、図書館のオンライン目録(重複している約9,363種は削除または統合済み)にも加え、検索して利用できるようにしました。また、民国93年(2004)から94年(2005)にかけて、コロンビア大学所蔵の伝統的な族譜の中で比較的整っているものを選出してデジタル化し、計307部(約25万ページ)が完成しました。更に一歩進めて、世系の源流、郡望、堂号、昭穆、家族規範、恩栄、科名、世系表などの分析も行ない、「家族譜牒文献データベース」を設置しており、研究の参考資料としてご利用になれます。
 

最終更新日:2021-09-10
回上一頁 TOP